舞台ist
私たちを楽しませてくれる舞台づくりのプロに話を聞く企画”舞台ist”。年間観劇数100本を越えるTheatre at Dawnミナが気になる人を取材し、不定期で連載します。
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Vol.2 浅利慶太さん
「完全リアリズムのミュージカルを。」
各地の公共ホールをまわる全国ツアーを実施し、東京だけでなく主要都市に専用劇場をつくっては数々のレパートリーを上演してきた劇団四季。舞台の楽しみを日本中に広げてくれた仕掛人は、1953年に20歳の若さで劇団四季を立ち上げた浅利慶太(あさり・けいた)さんです。初ミュージカルが劇団四季の地方公演だったという人、または、劇場へ通う習慣はないけど「ライオンキング」なら観たよ!という人、すごく多いですよね。かくいう私もミュージカル観劇デビューは札幌で観た1992年のCATSでした。浅利さんは、その後「浅利演出事務所」を設立し、東京・浜松町の「自由劇場」を拠点とした公演活動を行っていますが、現在は開幕間近の「ミュージカル李香蘭」のお稽古中。今なお舞台づくりに向き合い続ける浅利さんをたずねて、東京・代々木のアトリエにお邪魔してきました。
* このコラムは、シアターアットドーン主催「Making of Musical」企画の一環として、ミューケン特派員と一緒に見学させていただいた「ミュージカル李香蘭」稽古の様子と、その後の浅利さんの囲みインタビュー内容をまとめたものです。
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= 稽古場レポート =
『「李香蘭」の初演は25年前。浅利さんが自ら脚本を書いたオリジナル作品で、これまでに各地で再演を重ね878回もの上演回数を記録している。その中には中国での北京・長春・瀋陽・大連、シンガーポールでの海外公演も。戦争を題材にしたファンタジー感薄めの作品にも関わらず、「これをみて劇団四季を志した」という役者さん、多し。』そんなことを頭で繰り返しながらお邪魔した稽古場アトリエ。
よろしくお願いします!
休憩中は、柔軟体操をしたり、談笑したり、鏡に向かって動きを確認したり、ペアでダンスシーンの練習をしたり。天井が高くて、鏡があって、バーがぐるりと巡らせてあって、舞台に見立てたスペースのすぐ脇に、演出家やスタッフのためのイス。そして私たちのためのイス。その横に、音響デスク。
稽古場に浅利さんが現れると、部屋のあちこちにいた役者さんたちが集まってきます。
「1幕を出来るだけ通してみよう。今日は取材が来ているけど、いつも通りにやるように。」
パンっ!と手を打つのが合図なんですね。一斉にそれぞれの位置につく皆さん。
「集中して。(もう一度、パンっ)」・・・オーヴァチュアが鳴り始めました。
黒いTシャツを着ている人が多いのは、特にルールが決められているわけではなく。でも李香蘭のお稽古は黒が多いかも、と制作さん。
ほとんど身ぶり手ぶりだけで道具を使わず、本番と同じ段取りで流れていきます。
衣装はついてなくて、でもダンスの振付を入れていくとか、セリフが飛んじゃった!といった段階ではなく、グワーーっと外に向けて発するというよりは、自分自身と向き合いながら染み込ませていってる感じ。役を演じながらも、少し客観してる役者さん自身の存在も感じるのだけど、でも30センチ先で「ほえっ!?」と顔をした私たちと目が合うことはなく。その集中力がすごい!
あと、すごく感じたのは、
ドヤッ!て顔してる人がいないので、
テンションが冷静だから、全体が流れるように進んでるように見えるのだけど、
見せ方としてはアクロバティックに踊る皆さん、
の、後ろで銃を構えて歌う軍人さん、
の、間から押し出されるようにしてセンターへ出てくる主人公、とか
すごい難しい技を次々に繰り出してくる、だけどそこを記憶に残してもらうためにやってるのではなくて、
きっと成熟した稽古場なんだろうなってこと。
そしてやっぱり、筋肉なのか 型なのか。
30センチ先で生身の人がやっていることを、立つことも怒った顔をすることも、「わ、これ全部、私はいっこも出来ない!」って。w 当たり前なんでしょうけど。特に複数の役を演じる役者さん、出てくるたびに人格ちがくて、演技のプロなんだなぁーーって、見てて強く思いました。当たり前なんでしょうけど!
見てて面白いってどういうメカニズムなんだろう?
ドーンのカメラマン、プリンスの写真がとても素敵なので、いくつかまとめてフォトギャラリーにします。
さて、時系列に進んでゆくストーリーですが、
「昭和8年!」というセリフが出たところで再びあの合図が。
パンっ!
再び集まった皆さんを確かめてからこちらへ振り向き、
「僕が昭和8年うまれなので、ここまでが、僕のうまれる前の歴史です。」
アハハっと緊張をほどき、ほほえむ役者さん達。
ここで稽古は一旦休憩となり、私たちも退室。別室での囲みインタビューへうつりました。
= INTERVIEW =
Dawn:おつかれさまでした!1幕の途中まで、ストップなしの通し稽古でした。
浅利さん:ありがとう。疲れませんでした?(笑)稽古は細かくやる時もあります。長くやる時もあるし、今日は通してみたけど、だんだん良くなってきました。
Dawn:「李香蘭」は戦争を扱うレパートリーの中で特に再演の多い作品ですね。
浅利さん:戦後だいぶ経ちました。いまの若い方々に、あの戦争で何が起こったのかを見ておいてほしい。「李香蘭」が最も事実に基づいた話なんです。嘘のない、完全なリアリズムで作っています。今では見る側も演る側もほとんどが戦後生まれですが、僕は昭和8年生まれで戦争が始まったときが小学3年生。終わったのが中学1年生のとき。よく覚えています。舞台をつくるにあたっては、自分が生まれる前の歴史を丁寧に調べるところから始めましたが、あの時と今の政治とは違いすぎる。舞台をみて理解してほしいなと思いますね。
Dawn:当時のことはどのように記憶していますか?
浅利さん:李香蘭という大スターは知っていましたが、個人的に知り合ったのは戦後になります。小学3年生の終わりに疎開して、軽井沢の小学校に通いました。学校へ行くのに片道3.75キロの道のりを歩いて、そのおかげで今でも足腰は丈夫。(笑)、、、終戦の日は、中学の同級生が「おーい、今日日本負けたよ」って。東京へ帰ってきてみたら、上野から秋葉原のあたりが焼け野原になっていました。家や町があったはずの所に何もなかった。
Dawn:そういった歴史についても稽古場で話したんですか?
浅利さん:その場所その場所で、少しずつね。時代は変わったけれど、一つ一つの事件や歴史のドラマを事実だけで、わかりやすく伝えるという部分は深まっていると思います。段取りは変わらない。だけど今回の「李香蘭」が今までで一番お客様の心に響くはずです。
Dawn:私はふだん丸の内を拠点にしているので、劇中で出てくる丸の内警察署や日劇(今は映画館)、山口淑子さん(=李香蘭)の手形が彫られている所も近いんです。
浅利さん:丸の内警察署だと、日比谷のほうだ。すぐ横の日生劇場は僕が開場から関わったんですよ。
Dawn:そうですよね!「李香蘭」をさらに全国の皆さんへといった計画は?
浅利さん:やりたいです。「李香蘭」では中国にも行ったんですよ。全国という意識が新劇には足りなくて。僕は全国公演もつくりましたが、今は公演数が少なくて申し訳ない。劇団四季があちこちの劇場で広く公演をやっていますけれど、もうほかの人に任せています。30年前にスカラ座でやった「マダム・バタフライ」もお見せしたかったなぁ(と、壁に貼ってある当時のポスターに目を向ける)。
Dawn:今後、新作のご予定は?
浅利さん:もともと歌舞伎の血筋なので、僕の大叔父の二代目 市川左団次のために書かれた「番長皿屋敷」はやりたいですね。ひとつのことをマジメにやってきてはいるんですが、計画性がないので(笑)やる気になったらやるかも知れません。
Dawn:期待して待ってます!今日はありがとうございました。「李香蘭」の本番も楽しみです。
浅利さん:ありがとうございました。この後は1幕の残りをやってきます。よかったら見てく?
Dawn:!!!(見たかったですが、さすがにお邪魔かと思い、帰りました。。笑)
最後に)
予定していた15分を大きく越えて、最後までにこやかに丁寧にお話をしてくださいました。この後のお稽古の様子について制作さんに後で伺ったところ、「細かなダメ出しは主に言葉について。一音一音を落とさずに、棒読みにならず実感をともなって言えているか。台本1ページくらいの、上演時間にしたら1分間のシーンを1時間以上かけて繰り返し稽古が行われたんですよ!」とのこと。稽古場にはベテランも若い俳優さんもいて、挨拶をするとどの役者さんも「ありがとうございました〜 ^^」と笑いかけてくれる雰囲気。20歳から劇団を始めて今年で83歳の浅利さんが、今なお稽古場を仕切り、背も高くてカッコいいことを、ただただスゴイなぁって思いました。普通は目にすることのない創作の現場。この貴重な体験を経て、見慣れた「李香蘭」の舞台をどう感じるのか、観劇の日が楽しみです。どうもありがとうございました!
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◎浅利慶太プロデュース公演『李香蘭』
浜松町・自由劇場にて
9/3(土)〜9/11(日)まで上演
ブログ読者の皆さんへ、一般申込は締め切りましたが、9/4(日)13:00〜 観劇と、その後の出演俳優さん2名を交えた懇親会を【2名限定で】追加募集します♪ ご興味ある方は、8/31(水)17:00までに下記の通りお申込みください。
日程:9月4日(日)12:30〜12:45 受付、13:00〜 開演、16:00〜18:00 懇親会
場所:JR東日本セートセンター 自由劇場(懇親会は劇場から徒歩圏内の会場です)
参加費:観劇 8,500円(指定席、事前振込)、懇親会 4,000円(食事とドリンクつき)
・宛先:theatre.at.dawn@gmail.com
・件名:「李香蘭 申し込み」
・本文:次の5点を明記ください:① お名前(フリガナ) ② 人数 ③ メールアドレス ④ 電話番号 ⑤ 懇親会への参加(あり・なし)
***シアターアットドーンより、お申込みメールの返信をもって予約確定となります。